2020.10.02

せっかく織物産地に拠点を持ったので、地元の職人さんと一緒にガーゼのアイテムをつくって思ったこと。

今年の5月にガーゼアイテムのブランドを立ち上げました。構想8ヶ月、というか原型となるサンプルを工場で見せてもらってからがそれくらい。その場で、あ!これは!と思ったが吉日、ブランド化させてもらうことに決めました。


最初のきっかけ

 職人さんとは、会社のWEBサイトを作りたいというお話で、打ち合わせをしていたところ、その原型サンプルを見てからのぼくがあからさまにテンションがあがってしまい、さっきまでと目の色が違うね!笑 と言われてしまった。クライアントワークももちろん真剣にやってはいるのですが、もともとタオルマニアのぼくからしたら、それに一目惚れ。お!お!おお!を禁じ得ませんでした。

 ほんとに「こんなんも昔、余った糸でちょっとあそびでつくったんやけど」と、さらっと出されたものだったので、構えていなかった分。余計に。




 もともと自分の商品ブランドが持ちたいとか、そういった思惑は持っていなくて、ただ漠然といつかそういう機会が、この地域とのご縁の延長線上であったらいいなくらいなもので、いつまでにということもなかったのですが、サンプルを見た瞬間から脳内に飛来した、これがこうなってこれのためになりそう、こういう副産物もありそう、という構想について、それから、このプロジェクトを進めながら思ったことについて、弊社の備忘録という意味でも書き残そうと思ったので、こういったタイトルで今日ここに述べることにしました。



ブランド化するときに、決めていたこと。

 マルブンノイチ、という名義でここ西脇市の活性事業を行う弊社ですが、本業はデザイン会社で、商品ブランディングやサービス設計などを生業としていて、西脇市近辺、関西エリアではWEBサイトをつくったり、商品パッケージのデザインをしたり、ということを企業さんへ提供しています。

 なので、ブランドの立ち上げには携わってきた経験の延長線上で、あ、ちょっと自分でもいっぺんやってみよ、ということで今回の「363°」というブランドに、気楽にトライしてみています。




 ただ、西脇市の隣町で生まれ育った自分にとって、父親や祖父母の織物関係の仕事をしていたり、マルブンノイチの活動を始めてから近隣に見てきた若手のクリエイターの活躍から、播州織自体の活性に対して、気軽に参入することには(恐れ多く)抵抗があって、それゆえに「地場産業に限らない地域の活性へのトライ」を標榜してきたということもあったのですが、そんな弊社なので、今回の「織物のブランド化」には、いくつか条件を設けました。

①:最終製品化までの工程がシンプルであること
②:パターンやテキスタイルデザインなど、(自分が未経験な)アパレル業界ならではのクリエイティブ領域のスキルを必要としないものであること
③:自分自身もその商品のコアターゲットであること

 ①,②は、知識不足をネックにしないため、③は、そのデザイン性やモデルさんが着けたルックなどといったクリエイティブ面ではなく、商品ベネフィットやブランディングのストーリー部分を武器にした方針にしたかったためです。ローコストかつ、なるべく自分たちがいま持っているスキルの土俵の上で戦っていけるものにしたい、という考えに基づいています。



機屋さんにもたらされるものって?

 さらに、①の要素は同時に、機屋さん(家内工業の織物工場さんとかをこう呼ぶ)にとっての最終製品化、つまり一般消費者にもっと近い距離での商売を可能にすると考えました。
 
 自分自身まだまだ勉強中ですが、生地が織り上がってから洋服になるまでには、さまざまな工程を経ます。パターンとか縫製とか、出来上がってからもモデルさんキャスティングしたり、カメラマン呼んだり、そこにはいくらまでお金をかけられるかとか、モデルさんカメラマンさんの交通費を考えると、こちら側が産地を出て都会へ赴いたほうがいいだろうか、でもそこにブランドの世界観に合うような撮影ロケ地が見つけられるだろうか、などといった、コストコントロールとクリエイティビティのバランス、それらのアウトプットなど、なかなか経験がないとこなせない領域です。



 一方、生地が織り上がるまでの工程は、今回に限って言えば無染色、生成りで仕上げる前提だったので、いい意味で自由度が限られ、職人さんとの会話のみで意思決定ができました。本来であれば、播州織特有の糸染めしかり、ジャカードしかり、テキスタイルデザインというものが介在する領域だと思うのですが、今回の商品はそういった意味でのデザインではなく、肌触りや使い勝手を武器にすることを前提にしているので、ここの知識不足はパス出来たものだと認識しています。

 つまり、機屋さん工程にプラスαで、一般消費者に対して最終製品として販売ができるということです。


織りの技術をわかりやすく最大化する

 これは、コロナによってより一層顕在化した「機屋さん、職人さんが食っていくこと」への課題に対する、一つの打開策だと自認しています。

 播州に限らず、そして織物業界に限らずですが、職人、ものづくりの担い手が、適正価格でものを作り、売り、事業を成長させて世代を越えて続けていくことは、一筋縄ではいきません。播州に限って言えば、「賃織」と呼ばれる「産元商社」からの”m単価”が決まった発注、これらはある程度相場が決まっており、その相場価格も、機屋さんに言わせてみれば十分な報酬ではない。(全ての発注がそうというわけではありません)さらにそれらは、国内外のアパレルメーカーが産元商社へ発注する案件であることを考えると、コロナ禍以降それらが激減し、なけなしの賃織報酬に依存していた機屋さんにとっては、それこそ死活問題になってしまいます。



 アパレルの情勢、産元商社からの発注に左右されすぎない、機屋さんの収益の柱が欲しい。もちろん、ぼくがこうしておせっかいを言うとっくの前から取り組んでいる機屋さんもたくさんあって、その一つの方法が生地売りです。しかしこれは、手芸を趣味にしている人や作品作りをする方など、ターゲットの母集団に限りがあります。
 
その次に、生地がほぼそのまま最終製品になるもの、ハンカチやおくるみ、そしてタオルなどがこれに当たると考えます。もちろん、実際これに取り組んでいる機屋さんもすでにいて、今回弊社からお願いをした機屋さんもそうでした。織りのプロである彼らの手仕事が、そのまま商品の特長になるため、ポテンシャルを最大化ができて、消費者に伝えやすい。



 タオルやケットともなれば、ずっとターゲットとなり得る母集団は広がり、ブランドストーリーや競合優位性を定義しやすく、ターゲット層に対するセグメントにもある程度手応えがありました。
 あとはそれに則ったパッケージデザイン、WEBサイト、キービジュアルやイメージ写真制作なので、これは弊社の本業です。前述の③の要素からも、マーケティングに先行投資することもいったん不要としました。
 
 それらの前提をもって、ブランド立ち上げに着手しました。ここで強調したいのは、これの原資がわずかでも着手できたということです。デザイン領域が内製化できていることもありますが、これまでに広告費などはかけずに、単純に原料、織り(サイジング等も含み)、縫製、パッケージなどの資材代(これもローコストに)、これらが外部流出のコストです。数十万からの着手が可能なので資金調達も不要で、本業のキャッシュ、社内の既存人員でまかないました。ローリスクでミニマムスタートしています。

【後半へ続く】


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ライター情報

丸山大貴

Writing / Daiki Maruyama

マルブンノイチの一連のプロジェクトオーガナイザーで、普段はデザインデイレクター。当メディアを機に記事執筆にも挑戦中。一応文学部出身