2020.10.14

地方で目立ったブランドのあるエリアでも、追随するブランドやプロダクトがなければ、そのユーザー体験はリアルでありながらオンラインショップ以下かもしれない。

地方にも拠点を置くデザイン会社が、地場産業の自社プロダクトを立ち上げて半年。の話の後編です。

【前半からのつづき】 

 かいつまんで言うと、職人さんの織っているものを見て可能性を信じて、それを自分の思うターゲットへ向けてブランドデザインして売ってみた、といった感じです。

 いつでも辞められるように、最小限の原資でスタートし、東京でのポップアップなどを経て強めた手応えから、追加発注、追加発注で、(まだ微々たるものですが)徐々に売上を伸ばしています。機屋さんにも満足のいく工賃、報酬をとってもらっているので、このブランドが売れるほど応援できる、同じ目的に向かっていられる関係は、やはり気持ちよく仕事ができるなあという実感です。


もう一回、他の人がやろうと思ったらやれる方法で

 そして、このブランドがそれなりの売上をつくり、影響力を持った暁には、上述のミニマムスタート、チャレンジ、D2Cでの機屋さんの収益モデルとして、産地の課題に対する一つの答えにしたいと思っています。広告費をたくさんかけた成長があっても、産地の事業者にとっては説得力とリアリティが半減するように思うので、あくまで「再生産しやすいモデル」にこだわりたい気持ちを持っています。

 織物に限らず、食材などもそうですが、産地の中にいるとなかなかその価値を客観視、俯瞰できずに、コアターゲットに出会えないまま弱気な値段で売ってしまったり、自己肯定感の低いビジネス設計に陥りがちなことは、SNSやECがそういった事業者にも一般化してきた昨今でも、自分が産地や田舎を見ている限り、それでもまだまだ多いケースだと思います。

「これからもっと時代がかわっていくかもしれないけど」という漠然とした期待は、他産地に先を越され兼ねないし、やはり受け身では、時代の変化による恩恵を被る順番が一番最後になってしまう。

「自分たちにもできるんだ」というポテンシャルへの自信と、適切な方法論を根付かせることも、このブランドの一つのミッションであると考えています。



 そのサイクルがこの地域に根付いていくことは、この土地のビジネス、事業者のレベルをボトムアップし、淘汰し、地方なりのアクセシビリティとポテンシャルの身の丈に合ったビジネス展開をする土壌、そしてそれが醸成されたこのエリアへ、また新たな事業者、起業家がよそから流入してくること、彼らが自身のビジネスのステージとして西脇市を選んでくれること、これはマルブンノイチの使命として自任しています。表面的な好条件を強引に掲げて呼び込むのではなく、まずは土壌づくり、そのあとに自ずと選ばれる街になること。

あと2年以内には実現したいビジョンです。


業種はさまざまに。地場産業の街だからこそ。


 織物に限らずーーー。

これにこだわる理由はいろいろあるのですが、一つはリスクヘッジ。

コロナの時代に打撃を受ける業界とそうでない業界、そしてさらに強く生きる業界とがありました。「◯◯ストリート」と、おしなべて播州織で揃えるのではなく、さまざまな業種の事業者と、さまざまな商店、その中にお目当てのお店やブランドがあれば、やってきた人が他のプロダクト、ブランドに出会う。

そのときに彼らのお眼鏡に適うクオリティでなければ、やはりお目当てに行って帰るだけ、オンラインショッピングと変わらない、いやそれ以下のユーザー体験でしかないかもしれません。

 本来商店街とはそういうものなのだと考えますが、ある商店が獲得したお客さんが、いい意味で他のお店にも目移りしながら、あ、これもいい、これもいいね、と120%の満足をして楽しめる。そのためにはやはり、一点突破ではなく土壌づくりであり、時には淘汰され、並ぶ商店全体のクオリティがボトムアップされること。

その実現のためにノウハウを一帯でシェアする土壌と、新たに流入する事業者にもそのフォローアップ体制が整っていること。



 都市部にも一流の仕事を持ったフリーランスのエンジニア、マーケッターなどがいれば、その体制も随分と強固なものになるだろうし、井の中の蛙にならず、クオリティへのシビアな視点もお互いに持ち合える。

そんなことはみんな言ってるし分かっている。けど、意外と難しいことだなあと思っています。

商店やオフィスを持ちたい人を選別していいのか、誰がものさしになるのか、まして空き家の多い商店街、地方の郊外の町でそれができるのか。

タイミングと近隣の理解とをうまい按配で掴みながら、複数の方面を同時並行する、ちょっとマルチタスクが要求されます。


産地の資産は、そのものづくりや技術よりも、これからなす成功のプロセスの可視化

 なので、もう一つの理由はターゲットの多角化。上述のとおりリスクもノウハウも分散します。地方が活性化を考えるとき、地場産業、当然これは歴史とそれに裏打ちされたクオリティがあってこそ、栄えた時代があったわけなので、価値の再発見、リブランディング、税金を投じた復興プロジェクト、もっともな施策だと思いますが、リスクヘッジ以外の理由でも、それだけに頼るのはあまりにもったいないと考えます。

 その産業のポテンシャルに対して、時代に合った方法、手段、ノウハウを応用するわけですが、そのプロセス自体はどんな業界、ビジネスにも通底する部分が一定数あって、その復興プロセスこそを可視化、価値化することが、「土壌づくり」の一歩、「V字の成功を目撃した人たちがいる街」なら、ビジネスにトライしやすく、方法論も根付いているだろうと、そうした事業者たちのいるステージを選びたくなるはずです。そして、「地方の成功体験」はこれからさらに影響力を持つものだと思います。




 ところで、ご紹介してきた「363°」のガーゼアイテム、タオルに次いでケットをリリースしました。クラウドファンディングサイト「Makuake」にて発売しています。現在おかげさまで900%を達成中です。

 ガーゼのアイテム、まして肌に触れる商材なんて、直接手で触って確認をしてから買いたいものだと、個人的には思うのですが、ありがたいことに現時点までで270万の応援購入をしていただいています。

 たしかに、「応援をした」という充足感は、消費行動に一役買っているのだと強く実感していますし、自分自身も、同様の商品AとBを並べられたら、背景にあるストーリーや伸び代への期待、誰から買うか、ということを踏まえて選びます。

買ったところから始まるのではなく、ユーザー体験が「購入」よりももっと手前から始まっている。

「応援している」という充足感はやはり気持ちいい 

 このユーザー体験の傾向は、地域活性にも随分応用できるものだと考えています。実際にぼく自身、コロナをきっかけに、産地から食材や調味料を取り寄せるようになりました。「応援する対象を持っていること」これは、もっと一般的な営みになっていくと考えています。

 それが、故郷でも東京でもない、第三の地方。キャリアや人生設計におけるサードプレイスを持つということだと思います。

 それは、よく行く旅先であり、普段食材を取り寄せている地方であり、それこそたまたまクラウドファンディングサイトで知ったプロダクトの産地であったり、きっかけはなんでもよくて、愛着を持ち始めた地方こそが、それになるのだと思います。
 そしてそのとき、すべての選択肢を並べた上での取捨選択は、とても一人の一回の人生は不可能、だからこそきっかけを問わない「愛着」が、その決め手になるのだと。もう愛してしまったから仕方がない、ということです。



 ぼくは西脇市に愛着があります。きっかけは昭和好きで隣町出身だったから知った、ただそれだけです。そしてその西脇市は、観光地として考えても未整備、未発達。産業もまだまだこれから。まちなみはレトロシュールで昭和からありのまま、景気がよかった時代の残り香が愛らしくて、それを引きずった人たちとその子供、孫たちもまた愛らしい。とても「応援購入」したくなりやすい街だと考えています。
 
 そうは言っても、産業は産業で自走する必要があります。難しく考えずに、方法を知り、共有し、足りないリソースは必要最低限に素直に外注してやっていくだけ。難しい言葉やそれらしい響きの概念、情弱への啓蒙的マウントや目新しさが先行したセミナーもいらない。

 その事業者が数年先を見据えたときに直近に何をすべきかが重要なのであって、それは事業者ごとに違う。話してみないと分からないし、リテラシーも各々。だから経験と愛着と共通言語を持って街の事業者と向き合って同じゴールを自分ごととして持てる人が、これからどれほど地方に根ざすのかが分水嶺。これがちょっと難しく、でも意外と難しくないものだと思います。

 それを、まずはこのブランドを通して、職人さんと一緒に体現していきたいと思います。



 たくさんのリクエストから、363°より、トリプルガーゼのルームウェアを開発中です。ワンピース、Tシャツ、パンツの試作がすでにあって、9/20に開催した「◯/の市」イベントの展示でも、たくさんご予約をいただきました。ありがとうございます。

 次回は、11/29の「◯/の市」イベントにてご覧になれます。ルームウェアを含めた、現状の全ラインナップを揃えてお待ちしていますので、ぜひお立ち寄りください。



▶そんなに偉そうにのたまうんやったら、いっぺん見たろやないか。という方はこちらです。

https://www.makuake.com/project/363gauzeket/

ライター情報

丸山大貴

Writing / Daiki Maruyama

マルブンノイチの一連のプロジェクトオーガナイザーで、普段はデザインデイレクター。当メディアを機に記事執筆にも挑戦中。一応文学部出身