ライター情報
丸山大貴
Writing / Daiki Maruyama
お店に入ろうとドアを開けるころには、ステッカーの正体がわかります。
「まけんグミ」「三角くじ」「焼!ほたて貝ひも」どれもお菓子の空き箱を切り取って貼ったものでした。それに紛れて「青少年を守る店」のステッカー。地域に根づいて、何十年もこの場所で大勢の子供たちに愛されてきたことが、日焼けして色の褪せたお菓子のステッカーから察せられた。
お店を守ってきたのは、村井敏子さん。御年83歳だそうです。
「わたしはこの家の出ぇでね、昔はすぐそこが駅やったからねえ。わたしらの遊び場でしてん」とお話をしてくれました。
鍛冶屋線※1が通っていたころには、「市原駅」から徒歩すぐのこの店は、学校帰りの子どもたちも通うなど賑わいがあったが、廃線とともに少しずつ客足が遠のいてしまったそう。それでも店前の道を車で通る人たちがパンを買うなど、いくらか利用者が続いていたものが、ある日「通学路」ということで車が通れなくなってしまってからは、苦しい経営になってしまったという。少子化でただでさえ経営が大変な業種であることは言うまでもない。
「それでもね、もうほんまにボケ防止や思ってね、ほんまにそれだけで続けてますねんや」
と敏子さん。
そんなご謙遜を、と思っていたら、
取材中、親子連れのお客さんがあった。子供たちが思い思いに選んだお菓子を袋に詰めて渡してやる敏子さんを見ていると、ついこう聞きたくなった。
ーーーーやっぱりあぁして子供さんらが来てくれたら、かわいいもんですね」
「そうやねえ、今日は土日ですけど、平日なんかもね、わたしら病院行ってからちょっと戻りが遅なったなあ、いうときでも、夕方に子供らの学校から帰ってくるまでにお店開けてあげんと、思ってねえ」
御本人はやはりあっけらかんと、そしてやや謙遜気味にお話されるが、村井商店さんが、日々当たり前のようにされている業務のお話には、驚かされることがいくつもありました。
僕(筆者)は今年27歳で、駄菓子屋に通ったのは、そして駄菓子屋が身近に存在していたのは小学校中学年くらいまでだが、その時の記憶の中にも、
そして大人になって東京の下町などに残っている古くからの駄菓子屋でも、
見たことのないような商品が、村井商店さんには数多く並んでいた。
ーーーー「すごい、あまり見たことのないお菓子とかもあって、品揃えがすごいですね」
複数のお菓子の取次業者さんとの取引や遠方からの仕入れによって、昔からの品揃えを保っているとのこと。
「やっぱり子供らが来て、昨日まで買いよったのがなくなった、言うたらかわいそうでしょう」
そして、同じ思いで10円のものは10円でと、駄菓子メーカーがやむなく値上げや内容量を減らす中で、値段据え置きでの販売にこだわってらっしゃった。たくさん買えたらやっぱり子供らも嬉しいからねえ、とあっけらかんと敏子さんはお話されるが、簡単にできることではないと思う。
本当に品揃えは随一だと思う。AEONの中の駄菓子コーナーやコンビニではお目にかかれないくらい。これは大人にとってもちょっとしたパラダイスではないだろうか。駄菓子マニアや詳しい人こそ、一度行かれてみたはいかがだろうか。
そしてその品揃えの中においても、「アタリつき」の商品の多さにも驚いた。
「アタリ」にはそれが「10円」でも「50円」でも「もう一個おまけ」でも、値段以上の喜びがあるが、それは並々ならないお店側の努力によって得られるものだと、僕はこの日初めて知った。
「中にはねえ、よそのアタリをうちへ持ってくる人もおるんです」
と敏子さんはお話してくれた。
オンラインで箱買いをして、箱の中に決まった割合で入っているアタリを、持ってくる人なども中にはいるとか。
防止策として、お菓子の包に目立たないように小さくマーカーで印をつけるそうだ。
ーーーー「え?この全部のアタリつき商品にですか?」
この品揃え、中でも子供たちが喜ぶようにと「アタリつき」商品を多く扱うことには、そんな陰ながらの、とてつもない努力によって成り立っているのだと驚いた。
それでも、定期的にマーカーの色や印の場所を変えないと、同じ色でマーカーをつけて持ってくるお客さんも中にはいるのだとか。
「それでもやっぱり、子供らがおばあちゃん当たったでーって持ってくるのは、かわいいですからねえ」
それでもボケ防止のために続けています、とあっけらかんと言い張る敏子さん。ある意味パンキッシュ。
たまに自分(敏子さん)が店先へ出ていないと、子供たちが「おばあちゃんおらへんの?」と言ってくれるそうだ。
子供たちにとっては、自分のおばあちゃんと、それから地域のもうひとりのおばあちゃんといった感じだろうか。
僕自身も、そう言えばこのプロジェクトで地域と関わるようになって「おばあちゃん」が増えている。
何の気なしに通うお店で、気づいたら孫のようにかわいがって接してくれるおばあちゃんがいることは、故郷ではない地域に愛着を持ち、関係を考え始めるきっかけになるのではないでしょうか。
ーーーー「おかあさん、おすすめのお菓子ってどれになるんですか?」
ずばり子供はうんちグミ。youtuberヒカキンのまとめ買い動画で再燃したこともあって、ずいぶん人気だろうだ。頻繁に補充しているという。
大人はきなこ棒。親子連れで来ても懐かしくなったお父さんお母さんの方が張り切って子供よりお金を使ってしまうことが多いそうで、その筆頭がきなこ棒だそうだ。
我々、撮影取材班も、じゃあせっかくだからと「アタリつき」のサッカーくじをやってみた。
取材班4人ともアンダー30歳とは言え初めて見る商品で、意外と当たり外れの種類が豊富だった。全部で4箇所をスクラッチする。
同じ「日本の勝利」でも、ブラジルに勝つのとイタリアに勝つのとでは、アタリの金額が違っていて、そもそもブラジルがなかなか出ない。ブラジルが出るまでと、何個も挑戦したが削れど削れどイタリアに連勝。「アタリつき」商品の努力の話を聞いた直後に、ずいぶんと当ててしまった。が、ずいぶんと盛り上がった。
敏子さんも一緒になって楽しそうにお話してくださった。
最後に運試しにと、きなこ棒を1本ずつサービスしてくださった。そしたらまた当ててしまった。(なんと罪深きモデルさん。。)
大人だけで行く駄菓子屋、悪くないなと思いました。夜は20時までと、お仕事帰りにも立ち寄れます。
職場やママ友会で配るのにも、盛り上がっていいかもしれません。
そしてまたそこでアタリが出たら、持っていく村井商店さんの住所はこちら。
※村井商店さんで買ったものだけですよ!
〒677-0004 兵庫県西脇市市原町120
営業日:毎日9:00〜20:00
TEL:0795-22-4722
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丸山大貴
Writing / Daiki Maruyama