2019.07.26

「◯/の市」の存在意義を、今一度考えました。(全3回連載)

大阪、神戸から1時間半、京都から2時間弱の兵庫の田舎で、マルシェイベントを立ち上げて、次回7/27(土)で三回目。

ただでさえ、行きやすくはない場所、どこやねんそれ、の西脇で行うマルシェなので、たとえば神戸の人に来てもらいたいというときに、神戸で行われているマルシェと比較して、まず距離的なビハインドがあります。
神戸のマルシェの縮小再生産では、「まあ都会みたいやねえ、西脇やないみたいやわあ」と地元の方々が喜んでくれても、神戸からは人に来てもらえません。

アクセス△のマルシェでは、何が行ってみる理由になり得るのか。
これはマルシェに限らず、人が地方へわざわざ行く意味とはなにかを考えました。(=地方創生の永遠のテーマ)
ここからは、筆者が、民間の資金のみで持続する地域活性事業を西脇で立ち上げた理由、つまり西脇にいかに可能性を感じるかと、エリアブランディングを行う上での個人的な考えを述べたいと思います。


地元の老舗自転車屋のビンテージ「ラレー」をお借りした撮影


まずは生産拠点として考えると、(やや玄人的なメリットになるかもしれませんが)播州織の機屋さん、食材の生産者さんとの会話できる、現場を見ることができる、産地ゆえの値段と鮮度で買うことができる。
または、産地ゆえのプロダクト、ブランドに出会える、これも一つかもしれません。



次に、独特のまちなみ、実際に見たい景色かどうか。
旭マーケットは圧巻。横尾忠則のY字路や、黒田庄の丘稲荷神社の千本鳥居などは、それぞれの嗜好の人、ファンには通用するかもしれません。写真に撮ってインスタにアップしたいかどうか。もっと言うとフォトグラファーや旅系インフルエンサーが、行きたいかどうか。
昭和初期に建てられた風情ある旧商店街の建物群は、そこでマルシェの出店者が販売ブースを構えていたら、町家マルシェとはまた違う、良き不似合いさがあるかもしれない、そんな味わいがあるように思います。良すぎない良さです。


日本に現存する中でも、なかなかの木造アーケード


それから、ごはんが美味しいか。
移動距離を超える味があるか、また思い出してそれを食べたいがためにわざわざ行きたいほどの味か。西脇は知る人ぞ知る名店がありますが、県外の人、海外の人がわざわざ通いたくなるレベル、またはレベルがあっても知名度があるか、距離が遠くなればなるほど、味への期待値は上がるかもしれません。
西脇は、かつて織物で儲けたおっさん連中の舌が肥えとるから、美味い店しか残らんーーそんな都市伝説がありますが、筆者もあながち本当だと思います。


路地裏の町中華です


これらは、地方創生を語るときに定番の項目かもしれません。例えばこの項目ごとに点数をつけて、項目ごとに高い低いがあって、総合した評点でよその地方やよそのマルシェと勝負できるか。西脇はそれで言うと、個々の嗜好には刺されど、マスアプローチするにはちょっと不十分かも。そもそも、マスは狙うべきではないのかもしれません。

西脇の既成事実、資源、ポテンシャルをチェックして不十分だとしたら、
それでも刺さる人たちを中心とした、ターゲットへ向けてちょっと尖らせます。
「みんなが大好き西脇」は目指さないということです。強いファンから作っていく、そこから無理なくターゲットピラミッド上をおりていく下層までを、まずはターゲットにします。
誰に向けて尖らせているか、その意思表示をデザインで行います。
WEBサイトのデザインや、写真、キービジュアル、コピーの内容で、それをより具体的にします。



それから、
西脇は良くも悪くも、人が来訪する街として未整備であると考えています。同時に、これはチャンスかもしれないとも。
観光客はほとんどいない。それでも伏見稲荷と見紛うような千本鳥居や、産業で栄えたことのある街にしか出せない独特の味わい、限られた地元民しか知らないような(でも都市部の飲食店に引けを取らない美味しさ)穴場の飲食店があることで、発掘、探訪するような楽しさがあるように思います。ネットに載らない名店というやつでしょうか。
それに、人混みやホテルの予約がとれないなどの、観光地特有のストレスもあまりありません。(そもそも宿泊施設も数えるほどしかない現状ですが。)

そうした街のあれこれへ、
理由は各々、程度も各々でも、どんなきっかけでもいいから何らかの愛着を持ちはじめてもらえたら、空き家が埋まって新しいお店がオープンしたりだとか、マルシェのイベントがちょっとずつ大きくなっているだとか、そう言えば次回のイベントにはちょっと有名な音楽ユニットが来るらしいよとか、ちょっとした変化も気になってもらえるかもしれません。
始めたてのプロジェクトなので、変化を実感しやすさはひとしおです。

「応援したい」という消費行動の動機です。AKBのCDを買うことで得る投票券、ライブ配信アプリで投げ銭をする、そんなモチベーションに似ているかもしれません。
この場合、西脇に関して言えば配信を始めたばかりの無名アイドルといったところでしょうか。
その分、応援する人は、分母が少ないため自身が関与する程度を感じやすくなります。


登ってるか下ってるかどっちでしょうか。


未整備であることをチャンスと捉える意図はこのあたりにあります。
他の田舎ではなく、自分はこの街を選んで応援したい、という愛着のきっかけ、動機づけ、応援者にとっての必然性が重要になると考えます。

一方で、応援していることに自覚的ではない来場者や、出店者(特にAのような)も、知らずしらず街の成長に関与することになります。

そして言うまでもなく、地元の方、出身者、近隣市町村の中にも応援者がいます。イベント日に、かつての昭和の良き日の賑わいほどではなくとも、商店街の通りに人が集まる様を喜んでくれます。

それらの人たちの、「応援」の温度、自覚の有無等のレイヤーごちゃまぜでも、一堂に会することができるのがイベントであり、イベントの成長≒街の成長になるのが、都会ではなし得づらい、田舎マルシェの醍醐味かもしれません。

つまり、先の項で述べたイベントが成長する時のA〜Cの考え方に加え、

D:来場者が、主催、出店者、地元民を含めたイベントそのもの及び街を育てる

厳密には、来場者が来訪することで起こる効果が、直接的間接的に、〜を育てる、です。



(繰り返し)マルブンノイチが目指す理想の来場者の%は、「地元の人」と「よその人」=4:6〜3:7です。(ですが、今のところはその反対です)

そう考えるのは、上述のとおりその効果の波及、即効性への期待と、いろんなレイヤーの人の集合が成立するためです。それが、未経験からマルシェを始めた理由です。

西脇が新鮮に映る人たちが、彼らの目線で潜在する価値を見出してくれるかもしれない、そうしたムーブメントを目撃する地元民の中にも新鮮な視点が生まれて、ひいては地元を好きになる人が増えて、人口流出が少しは軽減されるかもしれない、そんな期待があります。



そして、未整備ゆえに「つくりもの」ではない昭和があります。同市のJR終点駅(今はもうない)近くで昭和30年から現役の喫茶店も、能町みね子さんが2018年の3月に訪れて、「十指に入る」と評価されていました。
ぱっと見がものすごく昭和っぽいわけではなく、国道から西脇市に入ってもひと目ではそれに気づきづらいかもしれません。しかし、それらが内包する旧市街地をうろつくと、そこかしこで「ただあのときからこのままなだけ」なのであろう”昭和”が点在しています。
それは西脇が、京阪神圏から近すぎず遠すぎない立地で、(ギリギリ、神戸のベットタウンには成り得なかった)産業と独特の歴史を形成した所以かもしれません。半径1キロ圏内に映画館が5軒あった地方都市って、そしてなおかついまこれほどまでに頽廃している街って、他にあるんだろうか。



西脇は、筆者の故郷の隣町で、両親は同市の学校出身だったり、
10年前に閉館した、かつて5つあった映画館の最後の一つ「西脇大劇」へ、都会から1ヶ月2ヶ月遅れてやってくるモスラやもののけ姫を見に行った幼少期や、18歳から進学を機に上京した後、外から客観的に見た西脇の姿と、中の人であったことと、外の人であったことの両面から、ああだこうだいろんな見方をしてみても、幾許かの故郷愛を排除してみても、どうにも魅力を感じる街が、たまたま故郷の隣にあったことで知り得て、
そしてたまたま入ったデザインやブランディングの業界で得たものとモチベーションが、この街に合致しそうだったことで、いまこの事業をやっています。



ここで、もう一つ、田舎マルシェの意義、恩恵を被る立場がある。

E:そのエリアでまちづくりやブランディングのクリエイティブを行う人が、自身の実績とする、またはそのプロジェクトを通してクリエイターとして成長する

言うまでもなく、若手の20代のクリエイティブ職である筆者もこれに該当します。

全国津々浦々、地方ブランディングやまちづくりプロジェクトが立ち上がって、発注者が自治体、役所であったり、民間企業だったり、(自分のように)勝手に始める人がいたり。これからもまだ、各所で事例は増えていくことと思われます。

その時に発注側は、クリエイティブ、プランニングの良し悪し、期待できる”目に見える”効果、継続性、投じるコストの妥当性、それらを判断できるか。
デザインやマーケティングに対するリテラシーに、受発注の両者間であまりに差があることで起こる、お金かけたはいいけど数年で終わってしまった、フェードアウトした、何が変わったのかいまいち実感できなかった、それっぽい動画とWEBサイトだけが残って運営の方法がわからないーーーーーそんな作り損にならないよう強く自戒するとともに、発注者がどう育つか、見る目を持つか、これらが次の課題であると考えています。

マルシェマルシェ言うてやってますけど、マルブンノイチでは「マーケットイベント」と呼んでいます。”マーケット”という呼称の方が、この昭和っぽい雰囲気に合っているような気がするのと、乱立マルシェに対して、まだ立ち上げたてのマルブンノイチが、ちょっとでも区別してもらえるようにと、気休めです。

そんなマーケットイベント「◯/の市」Vol.3は明日、7/27(土)です!
テーマは「カスタマイズ」
詳細はイベントページにてご覧ください。小雨決行! ちょっとの雨ならがまん




ライター情報

丸山大貴

Writing / Daiki Maruyama

マルブンノイチの一連のプロジェクトオーガナイザーで、普段はデザインデイレクター。当メディアを機に記事執筆にも挑戦中。一応文学部出身